2023年12月にKEENに入社した静木銀蔵さんは、京都大学大学院で社会心理学のグループダイナミックスを専攻する研究者でもあります。研究者である静木さんがKEENの中でどのような取り組みを行っていくのか、KEENの事業との相乗効果についてお話を聞きました。<プロフィール>静木銀蔵福井県坂井市出身。京都大学総合人間学部、京都大学大学院人間・環境学研究科(修士課程)を卒業。2023年12月にKEEN株式会社に入社。2024年4月より京都大学大学院人間・環境学研究科(博士課程)に復学予定。グループダイナミックスの研究者が考える実践の重要性―― 静木さんのご経歴を教えていただけますか?京都大学、京都大学大学院を卒業し、エムスリー株式会社に入社いたしました。ソリューションパートナービジネスユニットというメディカルマーケティングの支援事業部で働いたあとに京都大学の博士課程に復学しました。現在は、博士課程に在学しながら、KEENで働いています。―― 博士課程ではどんなことを研究されているんですか?社会心理学におけるグループダイナミックスという分野について実践研究をしています。グループダイナミックスとは、「集団において、人の行動や思考は、集団から影響を受け、また、集団に対しても影響を与える」という集団力学に関する研究分野です。私はその中でも特に「集団のベターメント(向上)」というテーマに興味を持って実践研究しています。例えば、企業組織における従業員の幸福度の向上や、エンゲージメントを引き出すために何をするべきかというような、いわゆる組織開発の文脈と近い領域ですね。自身のキャリアとして、教授職を目指しているのですが、一方で、企業組織に対しての「知の実践」という形で価値提供をするべく、研究の傍ら企業と組織開発の文脈でパートナーを組んで働いています。―― 研究と実践、両方を同時に行っているんですね研究をしながら働く目的としては、アカデミックとビジネスの架け橋的な存在になりたいと思っているからです。あえて強い言葉を使うと、外部者として机上の空論を述べるだけではなく、実際に組織の中に入り、内部者として当事者と伴に学術的な知識を活用しながら組織のベターメントを行う実践者になりたいです。学術的に提唱されているものでも「実際にビジネスの現場で実践できるのか。効果があるのか」と疑問に思うこともありますし、一方でビジネスの現場では「どういった根拠に基づいた施策なんだろうか」という疑問がわくこともあります。また、加速度的に変化する現代社会では、企業などの既存の組織の在り方も変化し、一方で新たな組織体の誕生も話題に上がります(コミュニティもその一つだと捉えています)。現代の組織に適した新たな理論は、これまでの理論と新たな組織での実践のサイクルを通して確立していく必要があると思います。こういった想いから、学術的な理論を自らビジネスの現場で実践してみて、そこから得られたフィードバックをまた理論に活かしていくサイクルを回していく、そんな研究者兼実践家でありたいと考えています。―― 京都大学大学院を卒業した後にエムスリーに入社されたのも、そういった背景があったからなんですねおっしゃるとおりです。そして、これからはKEENで新たに「コミュニティ」という”新たな集団”のダイナミックスについて、研究と実践にも挑戦していきます。フィードバックサイクルに研究開発を組み込み、コミュニティマーケティングの一般化を推し進める―― KEENではどのような役割を担っていくのですか?KEENでは、いわゆるR&D(研究開発)を進めていきます。現在KEENには、KEEN Managerというプロダクトと、コミュニティ運営の支援のサービスがあり、これらの提供で得られた知見を相互にフィードバックしてプロダクト・サービスの改善サイクルを回しています。ここに学術的な知見を加えて、プロダクトとコンサルティングサービス、研究開発という3つの要素で改善サイクルを回すことが私のミッションです。―― 具体的にはどのようなことを行っていくんですか?コミュニティを活用したマーケティングや社内施策の推進は、手法として比較的新しい概念であって、まだ一般的な"正解"というものは確立されていないと考えています。もちろん、現在もコミュニティ運営に対しては、様々な手法が実践されています。一方でそれらは個別ケースに対応していて、別のケースに転用できないことも多いと感じています。そこに対して、企業の組織開発の文脈や地域コミュニティの活性化の文脈で学術的に確立されている手法や実践事例を、コミュニティに応用できるように翻訳していければ、どのようなコミュニティに対しても一定の効果が期待できる手法が生み出せるかもしれません。私がKEENでやっていきたいのは、こういった個別の手法を理論や事例とかけ合わせて一般化していくことです。理論化し、一般化していく、それはアカデミックの重要な役割の一つだとも思っています。また、一般化とは異なりますが、コミュニティ運営における手法の信頼向上も私の役割です。根拠が明確ではない手法に対して、学術的な裏付けを行うことで「なぜ有効なのか」ということがわかり、自信を持った実践に繋がります。―― 企業組織だけでなく、コミュニティも静木さんの研究対象だったのですか?もちろんコミュニティも「集団」ですので、グループダイナミックスの研究対象ではありますが、私が今までメインで取り組んでいたフィールドは企業組織です。そのため、KEENを通してコミュニティという新しい研究対象と出会い、そして深く入り込んでいけるのは貴重な体験ですね。企業組織は、利益を追求していくといった目的が統一されていることがほとんどですが、コミュニティマーケティングを目的としたコミュニティというのは、企業と企業の社員、社外のユーザーを含んだ組織体です。そういった異なるセグメントの人々が一つのサービス、一つの文化を共有して、熱狂する。そんなコミュニティという組織には企業組織とは異なる点が多くて面白いと感じています。例えば、企業組織では短期の利益を求めてマーケティング活動を行っていくことがありますが、コミュニティにおいてはそういった利益を求める姿勢や、企業側がメンバーのLTV最大化を狙ったあからさまな施策を行ったりすると、途端にメンバーの熱が冷めてしまうこともあります。異なるセグメント、バックグラウンドを持った人々が集まるコミュニティという組織だからこその集団特性に面白みを感じています。コミュニティに入り込み、手を動かすことがアカデミックとビジネスの架け橋に繋がる―― 静木さんご自身として、まずはKEENでどんなことをやっていきたいですか?研究開発のPDCAサイクルをいち早く回していきたいですね。そのためにも、まずはコミュニティに携わる方々とお話しし、実際に改善施策を提案する機会を作っていきたいと思っています。社会心理学、グループダイナミックスという研究分野では、観察やインタビューだけではなく、集団の中に入りこんで手を動かしていくということをしないと、理論が机上の空論になってしまいがちで私自身もそれを危惧しています。KEENに入社したことで、コミュニティという新しい研究対象の中に入り込み、改善提案といった実践にも携われます。「コミュニティ」という組織の研究者兼実践家として様々な実績を積み上げていきたいですね。私が目指すアカデミックとビジネスの架け橋的な存在は、こういった活動の先にあると思いますね。採用情報はこちらから