「コミュニティ」は、さまざまな形でビジネスに価値をもたらすことが可能です。企業のチームやプログラムの効率や効果を向上させる機能横断的な力の増幅装置とも言えるでしょう。しかし、そのもたらす価値は長期的かつ間接的なものが多く、観測が難しいことから、「コミュニティの価値は具体的に何なのか?」と疑問を抱く人もいるでしょう。今回は海外の「Return on Community: ROI by Example」という記事を参考に、企業がコミュニティをどのように活用しているか紹介します。コミュニティが影響をもたらすビジネス領域は主に6つあります。1.製品開発2.マーケティング3.サポート4.営業5.カスタマーサクセス6.人材獲得以下では、実際の例を用いてコミュニティの各機能を紹介し、どのような効果、価値があるのか説明していきます。1.製品開発製品を作る際にコミュニティを利用することで得られる最も大きい価値はフィードバックです。顧客中心でありたいと思っている企業も、実際には、顧客からのフィードバックが少なく、製品を作り、それに対し顧客が支払いをし、問題がなければ以降特にやりとりがないという取引的な関係に落ち着いてしまっていることが多いでしょう。コミュニティはそんな取引的関係を共創的関係に変えることができます。HashiCorpはコミュニティから深く、実践的なフィードバックを大量に得ています。HashiCorp内部では製品に対するビジョンがほとんど達成できたとしていました。しかし、コミュニティが内部では考えられなかった、さまざまなユースケースや考慮事項を提示してくれたことにより、さらなる包括的なソリューションを競合他社よりも深く構築できるようになりました。Salesforceの製品フィードバックの中心、「IdeaExchange」では、メンバーからアイデアを提出してもらい、かつ、それに投票してもらっています。ここからアイデアの需要を判断し、特定の機能に興味を持つアカウントの数やプロフィールに基づいて、アイデアに優先順位をつけています。「IdeaExchange」には月に70万人の訪問者があり、2006年から2019年の間に65,000以上のアイデアが登録され、合計で190万票が投じられました。フィードバックは社内にとどめるだけでなく、商品に組み込むこともできますSephoraでは、コミュニティメンバーの写真、フィードバック、レビューをeコマースサイトの製品ページに組み込むことで、商品化しています。また、dbt Labsは、製品ドキュメントにコミュニティのディスカッションを含めて、ユーザーに補足情報を提供しています。2.マーケティングコミュニティのROIを考える際、1番最初に思いつきやすいのはマーケティングでしょう。認知度やファンからの支援の点でコミュニティは大きな影響を与えてくれます。Notionのアンバサダープログラムは、40の都市で65以上の対面ミートアップを運営しています。また、Discord、Facebook、LinkedIn、Reddit、Xなどのプラットフォームで30以上のオンライングループが200人以上のNotion製品を宣伝している人をサポートしています。これらは合計で70万人以上にリーチし、Notionのコンテンツは共有され、認知度は広がり、口コミエンジンが駆動しています。口コミは、企業の成長に大きな影響を与えます。Canvaの1億7000万を超えるユーザーの拡大の大部分は口コミのおかげなのです。また、Canvaのコンテンツの作成や共有は、85万人のコミュニティメンバーと150人以上の「Canvassador」によって推進されています。さらに、コミュニティでは、自社のコンテンツ作成もまかなえる可能性があります。UiPathはコミュニティメンバーから80以上の記事を集め、17万2000回の閲覧を達成し、SEOのためのキーワードカバレッジも向上しました。また、Duolingoは、言語学習プラットフォーム上のコース作成を1000人のコミュニティボランティアに委託しました。作成されたコースは対象の市場を拡大し、マーケティングの効率を向上させました。コミュニティが初期の最大の成長ドライバーとなったのです。より確立された企業では、コミュニティはアイデアのテストや需要の理解、つまり市場調査に役立つことがあります。例えば、AtlassianのPoint Aというプログラムでは、顧客と協力して問題を解決しようと数ヶ月で65の製品アイデアを収集し、そのうち12件に資金を提供しました。その結果、5つの新しい製品が誕生しました。3.サポートサポートは、コミュニティ活動の出発点となることがよくあります。コミュニティがケースディフレクション(問い合わせ件数の削減)に与える影響は広く認知されており、他のコミュニティ活用法に比べて効果の測定が容易です。ケースディフレクションへの取組は、企業側のニーズを優先し、ユーザーを助けるどころか逆にフラストレーションを与えるものがあります。しかし、コミュニティ(というケースディフレクションへの施策)ではそのようなトレードオフはなく、内部サポートチームよりもユーザーを満足させる可能性すらあります。コミュニティの本当の強みは、製品教育を通じてサポートを積極的に提供できる点にあります。Salesforceでは毎月4000以上のユーザーからの質問の83%がTrailblazerコミュニティ内のメンバーによって回答されています。時間が経つにつれて、Salesforceはコミュニティで作成された膨大な数の回答ライブラリをフォーラム上に構築しました。今ではそれは、主に検索エンジン経由で、月に50万回閲覧されています。各回答は平均約20人の問い合わせに当てはまり、毎月約200万ドルのサポートコストを節約しています。Atlassianも、コミュニティから得られるサポートのおかげでサポートエンジニアを減らすことができました。質問の91%はチャンピオンと呼ばれるメンバーによって回答されています。チャンピオンの1人であるNic Broughは、Atlassianのサポートチーム全体より、30%も多くコミュニティに解決策を提供しています。また、UiPathのコミュニティメンバーはフォーラム内にユースケースのリポジトリを作成しており、UiPath製品に関連するさまざまなユースケースとその活用方法を文書化しています。4.営業コミュニティは、売上を上げるのにも役立ちます。しかし、これは間接的に行うのが最も効果的で、優れたコミュニティ体験の二次的な効果として生じることが多いです。これだけ聞くと、少し曖昧に聞こえるかもしれませんが、現実はまったく異なります。Salesforceのコミュニティで、活発に活動している人々は、そうでない人の2倍支出をしています。UiPathは、コミュニティ効果により顧客が追加のユースケースを見つけられるようになりました。結果、10万ドル未満の契約を結んでいた顧客が1年以内に100万ドル以上に拡大し、トップ50の顧客の年間経常収益(ARR)が81倍に成長しました。また、コミュニティメンバーを活用して取引のチャンピオン、推進派になってもらうことで、取引の成約率を高め、営業プロセスの効率を向上させています。Figmaの場合、営業チームは自社の支持者と連携し、取引先の社内でFigmaを推進するために必要なデータやストーリーを提供しています。一方、HashiCorpは、コミュニティを活用したハイブリッド営業モデルを採用しています。チャンピオンは、コミュニティとの関わり、製品使用パターン、製品の使用時間に基づいて、購入準備状況に関する重要な洞察を営業チームに提供しています。これらの情報は、見込み客を選定し、営業担当者がいつ連絡を取るべきかを判断するのに用いられます。5.カスタマーサクセスコミュニティを通して実現したカスタマーサクセスは、企業内で大きな効果を生むことがあります。コミュニティから得られるコンテンツ、教育資料、ドキュメント、レビューなどは、顧客の製品採用を促します。Salesforceのコミュニティで活動している人は、非コミュニティメンバーと比べて採用率が33%高く、解約率が3倍低いことが示されています。また、Atlassianの新規製品ユーザーは、最初の2週間でコミュニティを訪れた場合、解約する可能性が2〜3倍低くなります。製品の機能をよりよく理解し、問題を解決できるようになるため、製品専門のネットワークにアクセスできるコミュニティは、顧客が製品のROIを高めるのに役立ちます。Sephoraの場合、コミュニティメンバーが自分の経験を共有したり、製品教育資料を作成したりすることで、購買者がより良い選択をできるようになり、製品の返品が減少しています。これにより、Sephoraにとってはコスト削減となり、消費者にとってもフラストレーションの軽減につながります。6.人材獲得コミュニティ内で知識豊富な人を集めることで、優れた人材を採用するための貴重なリソースとなります。GitLabは、Hall of Fameリストに載ったトップ20の貢献者全員を採用しました。また、HashiCorpは、初期のエンジニアの多くを自社のコードベースに貢献した人々から採用しました。ただし、コミュニティを人材獲得に用いるとき、バランスを保つことが重要です。コミュニティから過剰に採用しすぎると、自社の成長に必要不可欠な主要メンバーを失いかねません。そうはいってもコミュニティは、製品に対して情熱を持つ熟練した人材を見つけるには素晴らしい手段となります。まとめ今記事では、「Return on Community: ROI by Example」という海外の文献を参考に1.製品開発2.マーケティング3.サポート4.営業5.カスタマーサクセス6.人材獲得の6つの観点から企業が得られるコミュニティの価値について紹介しました。序盤でも述べたように、コミュニティから得られる効果は、長期的で間接的なものが多いため、本当に効果が得られるのか疑問を抱いていた人もいるかもしれません。今回紹介したそれぞれの観点における実際の活用例とその効果を参考に、あなたの企業でもコミュニティの利用を検討してみてはいかがでしょうか。